2015年02月18日15時29分

スペシャル対談 ダクタリ動物病院 総合院長 加藤 元

情熱は歳をとらない――。



今回、加藤元先生によるスペシャル対談をお送りいたします。
お相手は、2013年、80歳にして3度目のエベレスト登頂に成功し、
世界最高齢記録を樹立したプロスキーヤー・冒険家の三浦雄一郎さんです。
加藤先生とは、北海道大学獣医学部の同期生にして、長年親交を温める間柄。
そんなお二人にお互いの夢や元気の秘訣、人と動物の絆についてお話いただきました。




ダクタリ動物病院 総合院長
加藤 元(かとう・げん)

1932年神戸市生まれ。北海道大学獣医学部卒業後、神戸市立王子動物園獣医師を経て、1964年ダクタリ動物病院を開設。2001年動物病院基準、継続教育、動物介在セラビー(AAT)で知られる(社)日本動物病院福祉協会最高賞(JAHAアワード)を受賞。2012年、日本ヒューマン・アニマル・ネイチャー・ボンド・ソサエティを一般財団法人J-HANBSに改組し、理事長に就任。2014 年、日本人として初めてWSAVA(世界小動物獣医学会 )世界獣医療ヘルスケア賞を受賞。82歳の現在も獣医師として現場に立ち続けている。


ダクタリ動物病院 http://www.daktari.gr.jp






プロスキーヤー
三浦雄一郎
(みうら・ゆういちろう)

1932年青森市生まれ。北海道大学獣医学部に進学。1964年イタリア・キロメーターランセに日本人として初めて参加、時速172.084キロの当時の世界新記録樹立。1966年富士山直滑降。1970年エベレスト・サウスコル8,000m世界最高地点スキー滑降(ギネス認定)を成し遂げ、その記録映画 「THE MAN WHO SKIED DOWN EVEREST]」はアカデミー賞を受賞。1985年世界七大陸最高峰のスキー滑降を完全達成。2003年次男(豪太)とともにエベレスト登頂、当時の世界最高年齢登頂記録(70歳7ヶ月)樹立。2008年、75歳2度目、2013年80歳にて3度目のエベレスト登頂〔世界最高年齢登頂記録更新〕を果たす。




スキーに明け暮れた
わが青春時代



加藤 愛犬家の三浦さんですが、お忙しいのでなかなか世話をする時間もとれないでしょう?

三浦 今はチベタン・スパニエルという犬を飼っているのですが、僕の場合、ジプシーのようにあちこち旅して回る生活なので、世話はもっぱら家内や子供たちに任せきり。でも以前、紀州犬を飼っていましてね。札幌に藻岩山というトレーニングに使っている山があるんですが、よくそこを一緒に走って登りました。犬って面白いもので、登りは速く走れるのに、下りになるとついて来られず、いつもうちの息子におぶさって帰ってくるんです(笑)。ときにはスキー場で一緒にリフトに乗せて、山の上から一緒に滑ったりもしましたね。

加藤 私たちは北海道大学獣医学部の同期生だけれど、そもそも三浦さんはなぜ獣医学部に進まれたんですか?

三浦 まず北海道大学を選んだ理由は、単にスキーがやれると思ったから。当時僕は勉強もろくにせず、スキーでオリンピックを目指したり、第一次南極越冬隊員を目指したり、そんなことしか考えていなかった。医学部に進もうかとも考えていたんだけれど、友人に「お前みたいなやつが医者になったら将来人類に害を及ぼす」と言われてね(笑)。つまりあなたのようにきちんと獣医の道を目指す真面目な学生もいれば、僕のように行くところがなくて仕方なく獣医学部に進んだ学生もいたわけです。

加藤 確かに当時の獣医学部は人気がなかった。そういう時代でしたね。

三浦 とにかく山とスキーに明け暮れて、獣医学部史上最悪の学生でした。

加藤 あなたは山とスキーで、私は乗馬に夢中でした。

三浦 そうそう。僕は馬に乗ったことがなかったので、あなたに頼んで乗せてもらって、よく落馬したもんですよ。



世界一になりたい
今でもそれが原動力


加藤 お互い82歳だけれども、雄一郎さんは今でも本当に若々しいですね。

三浦 エベレストのような超高所は肉体年齢が70歳近く加齢される。例えば20歳の登山家がエベレストの山頂に登ったら90歳になります。ということは僕の場合、計算上150歳の肉体年齢になるわけです。もちろんそのまま何もせずにいたら、エベレスト登頂などできるはずもありません。限界を超えるために、「人間は歳をとってもここまでできるんだ」ということを証明するために、日々トレーニングを積んでいます。つまり僕にとってエベレストは、究極のアンチエイジングなんですよ。

加藤 そもそもなぜ70歳を過ぎてエベレストに登ろうと思われたんですか?

三浦 50代後半で現役をほぼ引退し、その後は運動もせず飲み放題、食べ放題の不摂生な生活を送っていました。そうしたら身長164㎝に対して体重90㎏、血圧は200近くまで上がり、糖尿病、腎臓透析、狭心症の発作まで起こすようになって、余命3年を宣言されたんです。70歳までは生きられないと。ちょうどその頃、僕の親父が99歳にしてモンブランの氷河をスキーで滑りましてね。99歳の親父がこんなに元気なのに、息子が60代でくたばっていられない。親父がモンブランなら自分はエベレストだ。どうせ余命3年なら、死んだ気になれば登れるだろうと思った。それが65歳のときです。しかしトレーニングを再開するも、当初は500mの藻岩山登山ですら息切れするという体たらくでした。

加藤 そんな状態から体力を回復させるのは並大抵の努力ではなかったでしょうね。普段はどんなトレーニングをされているんですか?

三浦 スキーをやるのが一番のトレーニングなんです。シーズン中は可能な限りスキーをしています。それから普段外出するときは、片足に5㎏ずつ重りをつけて、さらに20㎏近いリュックを背負って出かけます。家内には「無駄なもの背負って」と怒られますが(笑)

加藤 雄一郎さんはこれまでに3度、エベレスト登頂を成功させ、世界最高齢記録を塗り替えてこられた。きっとあなたのことだから、次なる挑戦もお考えなのでしょうね。

三浦 もちろん。次は85歳。エベレストには3回登ったので、次回はチョ・オユーという世界で6番目に高い山を目指します。2018年5月の予定です。

加藤 いくつになっても挑戦し続ける原動力は何なのですか?

三浦 僕は学生時代から日本一のスキーヤーになりたいと思って頑張ってきました。でもオリンピックは出られず、世界選手権も思うような成績を残せなかった。そして大学卒業後、ふと思ったんですよ。日本一になれなくても世界一になれるんじゃないか、これから目指すべきは世界一ではないかと。このときに火が点いた「Boys, be ambitious」の精神は、82歳になった今でも持ち続けています。世界一になる――それが僕の原動力です。

加藤 雄一郎さんの情熱は学生時代からまったく変わらないね。私はあなたの「情熱は歳をとらない」という言葉が大好き。私自身もその言葉のように生きたいと思っています。





人と動物がともに
自由に暮らせる社会に



三浦 先日、獣医療の世界的な賞を受賞されましたね。改めておめでとうございます。

加藤 いただいた賞は、世界小動物獣医学会の獣医療ヘルスケア賞で、毎年世界で一人が選ばれ、日本で初めてのことです。(世界で13人目)。私の長年にわたる人と動物と自然(地球環境の保全)を大切にしてきた実績を評価していただきました。

三浦 立派なもんだ。これは日本の獣医師界にとっても非常に名誉な話ですよ。今までの実績に加え、現役としてもまだ続けられている。それが世界から評価されたわけですから。

加藤 私は小学校4年生のときに動物の医者になりたいと思いました。まだ動物の医者という概念や職業がなかった時代です。以来今日までぶれることなく獣医の道を歩き続け、その間に人と動物を取り巻く環境もずいぶん変わりました。もともと日本は欧米と違い、人が動物たち――犬や猫とともに暮らす文化がなかったんですよ。しかし我々獣医師たちの長年の努力によって、今や日本にも犬や猫と一つ屋根の下でともに暮らすという文化が生まれました。それは嬉しいことですが、まだまだ道半ば。山の頂上はもっと先です。

三浦 加藤さんにとっての次なるチャレンジは何ですか?

加藤 それは今までやってきたことの延長線上にあるのですが、自分の一生の仕事として以前から決めていることがあります。日本ではマンションやレストランなど色々な場所に、「ペット可」という言葉が掲げられていますよね。こんな馬鹿げた話はない。家族の一員であるペットをなぜ自由に連れて歩けないのか、なぜそのような制限を受けなければならないのか。「エレベーターに乗せるな」とか、「籠から出すな」とか、そういう愚かな規則が作られること自体が後進国の象徴ですよ。例えばアメリカでは、公共の資金が1ドルでも入っている施設では「人と動物が共に住むことができる」という法律があります。そのくらい世界とは文化の差があります。もちろん他人の迷惑を考えないマナーのない飼い方はいけません。しかし動物が家族の一員として自由に暮らす、これも当たり前の権利です。私はそういう社会を実現させたい。そしてそのためには社会教育が必要となります。ではその社会教育ができるのは一体誰か――。それは獣医師しかいないでしょう。先進国の獣医科大学では実際そのような教育が行われています。ところが日本には獣医科大学が16校もありながら、AVMA(全米獣医学会)が認める獣医科大学の世界的な基準をクリアーしている大学は1校もありません。まずはこの現状を変えていかないと。人と動物がともに自由に暮らせる社会を作ること……それが私にとってのエベレストです。

三浦 僕が校長を務めているクラーク記念国際高等学校でも、加藤さんが提唱されている〝人と動物と自然の絆を科学的に大切にする――ヒューマン・アニマル・ネイチャー・ボンド〟という理念をカリキュラムに加えていますが、高校生たちが人間と動物の関わり方などを若いうちから勉強しつつあり、最近は徐々に浸透してきています。


目標を持ち続ければ
ずっと元気でいられる


加藤 いくつになっても元気でいられる秘訣は何ですか?

三浦 人間は歳をとっても目標があれば頑張れる。目標こそが生きる力の源ですよ。それが僕の場合はたまたま登山でした。人にはそれぞれ人生のテーマがありますから、自分がやりたいと思うことを見つけて、一生懸命に熱中すれば、いつまでも元気でいられます。それと健康面では、2種類の考え方がある。一つは一般的に言われる〝守る健康〟。そしてもう一つは〝攻める健康〟です。ウォーキングやラジオ体操といった〝守る健康法〟だけだと、結局は歳相応に老け込んでいきますが、可能な範囲内でハードなトレーニング――〝攻める健康法〟を取り入れれば、歳をとっても体力がアップし、とりわけ病気や怪我が治りやすくなります。寿命の限度はだいたい100歳と言われていますが、僕は今後これを120歳に置くべきだと思うんです。現在全国に100歳以上の高齢者は58000人いると言われています。しかしそのうちの8割は寝たきりで、100歳以上の健康な高齢者は決して多くありません。そこで寿命感覚を100歳から120歳に引き上げる。そうすれば100歳を超えても、「あと20年生きられる」という気持ちになるじゃないですか。とにかく目標を高く設定すること。それが元気でいられる秘訣だと思います。

加藤 私にも、「人と動物と自然を大切にする教育を通じて、将来を担う世界の子どもたちの〝科学する心〟を育てたい」という目標があります。いつまでも健康で元気に、目標に向かって挑戦し続けていきたいですね。



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