近善(ちかぜん)

幕末、戊辰戦争の幕開けとなった鳥羽・伏見の戦いの際、幕府軍が上洛を目指して駆け抜けたのが伏見街道だった。現在は直違橋(すじかいばし)通りと呼ばれるこの場所に、京町屋「近善」はひっそりと佇んでいる。
昭和2年の創業から、今年で88年目を迎えた。「近善」という名は、現在の店主の向井善真さんの祖父である創業者が「近江の善吉さん」と呼ばれていたことに由来する。
店内は、町屋特有の狭い間口に奥へと細長く続く造りになっている。「通り庭」と呼ばれる、入り口から奥へと一直線に結ぶ通路の部分にカウンター席が設けられ、座敷と離れはすべて個室となっている。座敷席から望む坪庭には鯉の泳ぐ池があり、ここから望む月もまた一興だ。
「すっぽん料理が基本ですが、旬を迎える5月から10月は鱧を出します。朝、市場で首だけ切った状態の鱧を仕入れ、店でおろします」と、語る向井さん。鱧には「骨切り」と呼ばれる熟練の技があり、薄い皮一枚残すようにして、身の部分にある無数の骨を細かく切っていく。京都ではこれができるようになれば、包丁人として一人前と言われる。
鱧おとし、鱧しゃぶは、いずれも和歌山の梅を使った自家製の梅肉ダレと共にいただく。真っ白な鱧と梅肉の朱い色のコントラストは見た目に美しく、梅の爽やかさとコクが淡白な味わいの鱧の旨味を引き立てる。
向井さんは「鍋の出汁は、昆布と鰹でとった後、コクを出すために素焼きにした鱧の骨を入れます」と、こだわりを見せる。京都の夏の味を堪能した。

近善
京都市伏見区深草直違橋9-191
【TEL】075-641-0858
【営業時間】17:00~22:30(22:00 オーダーストップ)
【定休日】日曜日、祝日
鱧しゃぶコース 一人前4500 円
八寸 鱧おとし 鱧しゃぶ 香の物 雑炊